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願い人の想い


  ――百の星がこの地に降り注ぐ時
      妖精は目覚める
   願いを聞き届けんとするために
        しかし気を付けよ
     真の願いはただ1つ――

          ………願い人、記す



 12月。
 外では、もう粉雪がちらちらと舞い始めていた。校庭が白く染まっていく。ダイナ学園の図書館の中は、いつも通り静かだった。・・・まあ、図書館は騒ぐ所ではないのだけれど。司書のティーナの姿はない。
 リナ・ミラージュはそっと図書館の戸を開いた。
 入り口の近くにいた生徒がふと顔を上げ、すぐに本に視線を落とす。その生徒の他にも、図書館内には数人の生徒がいた。
「あぁ、リナ! こっちよ!」
「セ、セーラ先輩…」
 リナの姿を見つけたセーラが、大声で呼ぶ。
 他の生徒達の視線が痛い。リナは思わず真っ赤になりながら、セーラへ駆け寄った。そして、できるだけ小声で話しかける。
「セーラ先輩、図書館では静かにしなきゃいけないんですよー」
「あ…ごめんなさい。でもリナったら、なかなか気付いてくれそうになかったんですもの。ところで、この本で良かったかしら?」
 そう言ってセーラが取り出したのは、黒い表紙の本。
 『星見祭について』…背表紙にはそう書かれている。
 セーラからその本を受け取ったリナは、思わず笑みをこぼした。
「ありがとうございます! これ、どこにあるのか分からなくて…」
「無理もないわ。…この膨大な量の本の中から見つけるなんて…」
 セーラはぐるりと図書館内を見渡した。数え切れない程の本。この膨大な量の本の中から、お目当ての本を見つけるというのは難しいだろう。
 …司書のティーナなら、あっという間に見つけることができるだろうが。
「ところでリナ? 星見祭の時に流星群を見ながら願い事ををすると叶う…。その伝説について調べているそうですわね?」
「はい。…ダメですか?」
 不安げなリナの顔を見て、セーラはにっこり笑った。
「いいえ。そういう伝説は、わたくしも好きですもの。でも、リナは知りませんの? 星見祭のもう1つの伝説を」
「もう1つの…伝説…?」
「えぇ。星見祭の夜に神社へ行くと、何か素敵なものが見れる…。そういう伝説があるの。知っていました?」
 リナが、慌てて首を振る。そんな伝説、聞いたこともなかった。
 もともとリナは、伝説などを信じるタイプではなかった。3年前、実際に願いが叶った者がいたという話を聞くまでは。そう簡単に願いは叶わない……。
 いや、むしろ叶うことなんかないのでは……。そう考え、願うことをあきらめた者達もいた。
 しかし、リナはあきらめきれず、今に至る。真実を、確かめるために。
「リナ…。あなたは、どういう願いごとをするつもりなの?」
「内緒です。人に言っちゃったら、叶わなくなっちゃうような気がして」
 ケチね、と呟いて、セーラが本のページを適当にめくる。
 そんなセーラを見て、リナは肩をすくめた。
「…あら?」
 琥珀色の瞳が、わずかに見開かれる。
 不思議に思ったリナは、本を覗き込んだ。

『――百の星がこの地に降り注ぐ時
      妖精は目覚める
   願いを聞き届けんとするために
        しかし気を付けよ
     真の願いはただ1つ――

          ………願い人、記す』<
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「伝承歌…。星見祭の伝承歌…」
「へぇ。こんなものがあったんですねー」
 セーラは面白そうに、文字を指でなぞった。
 …セーラ先輩、何か、変。
 そう思ったリナは、そっとセーラから離れた。

「神社…かぁ」
 窓を覗き込むと、真っ白な校庭が目に飛び込んできた。もう雪はやんだらしく、太陽の光を浴びて、校庭に積もった雪がきらきら光っている。
 リナは、校庭に向かって東の方を見た。東の端にあるのは、小さな、古い神社。その小ささと古さゆえに、存在はあまり知られていない。あの神社で、セーラのいう『素敵なもの』が見れるのだろうか。
 ……だとしたら、もう見た生徒も多いのでは? たとえ神社の存在があまり知られていないとはいえ、全く知られていないわけではない。それに、やろうと思えば夜、神社に行くことだって簡単なはずだ。
「…でも、そんなに簡単なのかなぁ。人生ってそんなに甘かったっけ?」
「リナ、何をブツブツ呟いているの?」
「あ、セーラ先輩…。さっきの神社の伝説なんですけど、別に実行することって難しくないんじゃ…」
 きょとんとした顔で、セーラが首を傾げる。
「あの、つまり神社には誰でも行けるんですよね。だから…」
「リナ…知らなかったのね? あの神社には、結界が」
「結界ー!?」
 セーラの言葉をさえぎって、リナが叫ぶ。
 周囲の生徒が、うるさそうにリナを見た。…視線が痛い…。
「す、すみません…。あの、セーラ先輩…結界って?」
「どうして結界があるのか、謎。どうしたら結界がとけるのか、謎。全てが謎に包まれているの」
 リナはうつむいて、しばらく考えているようだった。…が、再び顔を上げる。
「分かりました。大丈夫です、手伝ってもらいますから」
少し子悪魔的な笑みを浮かべ、そう呟いた。

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