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 午後9時、少し前。
 予定では、流星群は午後9時頃から見られることになっていた。校庭は、流星群を見ようとする生徒達で、埋め尽くされている。
 リナは、図書室に陣取って、夜空を眺めていた。校庭に出る気が、しなかった。…かといって、流星群を見ない訳にもいかない。そこでリナはティーナに頼んで、とりわけ見晴らしの良い、図書室を貸し切りにしてもらうことにしたのだった。
 時計の針が、少しずつ、少しずつ動いていく。
 やがて、午後9時を告げる大時計の鐘の音が聞こえてきた。
「…あっ」
 夜空を、すうっ、と光が流れていった。
 続いて、無数の光が流れていく。
「きれい…」
 …あぁ、そうだ。感心してる場合じゃない。
 願いごとを、しなくては。
「私の願いごとは…」
「何がお望みなの?」
 少し高めの少女の声が、背後から聞こえてきた。
 振り返ったリナの瞳に写ったのは…、妖精。
「…え、ええっ!?」
 金髪の、少女の姿をした可愛らしい妖精だった。淡い緑色の羽で、宙に浮かんでいる。
 リナは戸惑った。
 まだ、願いごともしてないのに!
「…リナ・ミラージュさん、でしょ?」
 疑わしそうに、妖精が言った。
  リナは、夢中で頷いた。
「良かった。私は、星見祭の妖精。願いごとを叶えるのが、私の役目よ。それで、何がお望み?」
「…え?」
 今度は、リナが疑わしそうに言った。
 「神社のご神体って、分かるかしら? 頼まれちゃったのよ、願いごとを叶えてほしいって。本来なら頼まれたって無視してるんだけど…。結構、付き合い長いから。仕方なくOKしちゃったの」
 神社のご神体。
 心の底から、感謝した。少しずるいかなー、とも思ったが。
「さぁ、願いごとを言ってちょうだいな。何でも叶えるわ」
「私は…」
 深呼吸してから、リナは口を開いた。
「一生幸せでいられるようにしてほしいんです!」
「…どうして?」
 突然の尋ねに、戸惑った。
 理由を聞かれるだなんて、誰も何も言ってなかったじゃない! 突然聞かれたって、何て答えたらいいか…。
「難しく考えないで。ただ、興味があっただけなの。あなたがどんなことを思ってるのか、考えてるのか。…どうして、一生幸せにしてほしいの?」
「私、…最初は、未来のことを教えてもらおうと思ってたんです。卒業のこと、卒業後のこと、もっと先のこと。でも。それじゃ何だか面白くないなって思って。先が見えてたらつまらないなって思って」
 妖精は、リナの話を興味深げに黙って聞いていた。
「それから、考えてみて…。幸せになりたいなって、ふと思ったんです。結局、一生幸せでいられたら、それ以上の幸せはないだろうなって思いました。ワガママで、贅沢な願いごとだと思うけど・・・。叶えてもらえますか?」
 それまで黙って聞いていた妖精が、不意に弾けたように笑い出した。
 何が何だか、リナにはさっぱり分からない。 …私、おかしいこと言った?
「ごめんなさい。でも、真面目な考えを持ってるのね。大丈夫よ、理由が納得できないものだからって願いごとを叶えないとか、そういう訳じゃないもの」
 それを聞いて、安心した。
 せっかく妖精に会えたのだ。ここまで来て、願いごとを叶えてもらえなかったでは、話にならない。
 いまだにくすくすと笑っている妖精が、リナにそっと小さな手をかざした。
『あなたが、一生幸せでいられますように』
 白い光がリナの頭上で輝き、…すぐに消えた。何が起こったのかリナにはよく分からなかったが、とりあえず願いごとは叶ったんだな、と思った。何はともあれ、これで一安心、というわけだ。
「これから、辛いことも悲しいこともあるかもしれないわ。でも、安心して。それを乗り越えれば、必ず幸せな結果が待ってるから」
「はい。がんばります」
「それじゃ、私、もう行かなきゃ。また、いつか…会えると良いわね。じゃあね!」
「あ…、ありがとうございました! また、いつか!」
 最後に、妖精はにっこりと笑って姿を消した。
 それからしばらく、リナはぼんやりと夜空を見上げていた。
 流星群は、いつの間にか止んでしまっていた。

 何処とも知れない闇の中。
 妖精は、今まさに1年の眠りにつこうとしていた。
 今夜から来年の星見祭の夜まで、妖精はずっと眠っているのだ。
『・・・ねえ』
 不意に、声をかけられた。少年の、声だった。
「何…?大丈夫、リナの願いごとだったら、叶えてきたから…」
 眠たそうに、妖精が言った。
『ありがとう』
「あなたって、気まぐれね。彼女のどこが気に入ったのか知らないけど…」
『うん? もちろん、全部だよ』
 それを聞いて、妖精は呆れたようにため息をついた。
「…変わってるのね」
 そうして、妖精は1年の眠りについた。

      『――百の星がこの地に降り注ぐ時
             妖精は目覚める
        願いを聞き届けんとするために
             しかし気を付けよ
          真の願いはただ1つ――

                    …願い人、記す』

 来年の星見祭まで、彼女が目覚めることはない。
 『おやすみ』
 少年の声も、それきり聞こえなくなった。


――願い人の想い・完――



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