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閉ざされた声

   
 時というものは、やさしくもあり、残酷でもある
 誰にもひとしく降り積もり、そして何もかもを奪っていく
 時を統べるということ
 それは全世界を手中に治める術
 高度な時間魔法は、ゆえに禁断とされ、
 それを操るものは闇に葬られてきた
 この封印が永遠に解かれることのなきを望む
 何人(なんびと)もこの書に触れることなかれ…
                  ――著者不明


 晴れ渡った6月の空。
 芽吹いた新緑には朝露がキラキラと反射して眩しく、木々の間では巣に待つひなのために親鳥達がいそがしく飛び回っていた。
 この季節、この地方では雨がちの気候が常なのだが、今日はめずらしくいい天気だ。高山にある澄んだ湖のように、雲一つない透き通った青が、誰の頭上にも広がっていた。

 その所在地を秘密裏にされている、ここダイナ学園――を包む空気も、心地よい針葉樹のかおりが風に運ばれて穏やかだった。
 しかし学園内の雰囲気は…というと、穏やかにはほど遠い騒々しさ…。いったい何が起こったというのだろうか。登校中の生徒達は友人に会うと、ある話題を口にして盛り上がっている。誰も彼も、多少の差はあるが話す内容は同じことのようだ。
 全寮制であるこの学園のこと、すでに学生寮でもひとしきり盛り上がった話題らしいが、それでもまた話してしまうというのは、よほど重大なことなのか。
「おい! おまえも聞こえたか?」
「ああ…アレ、なんだったんだろーな?」
「…ていうか、なんかこの島内にいた人全員に聞こえたみたいよ」

 ――アノ声。
 『ハヤク来テ、ワタシはココ! ハヤクして、ワタシヲ見ツケテ…、ハヤク――!!』

 昨夜、寝静まった学園内に、前触れもなく突然少女の声が響きわたった。といっても、耳に聞こえたわけではない。精神に直接反響したのだ。受ける側の魔力に関係なく、全員に(全生徒はもちろん、学食のおばちゃんにまで)聞こえたのだから、発した者の魔法力の強さは計り知れない。それとも何か、見えない力が働いているのか…。今までにない現象に、噂は様々な憶測を呼んだ。尾ひれをつけたそれは、学園中をさざなみのように駈けぬけ、誰をも巻き込んで膨れ上がっていった。

「あ〜もう! ないわねぇ…」
 学園の東端にある図書館。
 大陸一の膨大な書籍量を誇る、歴史ある建築物の奥の小部屋――資料室で、長身の女性が長時間屈んでいた腰をあげた。
 ふぅと溜息を吐いて、うっとうしそうに額にかかる前髪を掻きあげる。白衣の背中に垂らした、無造作なひとつまとめのプラチナブロンド。ずり落ちそうになる眼鏡のフレームを押さえるきれいな指。――言わずと知れたこの図書館の司書、ティーナ・ラサーテだった。
 室内はティーナが漁りまくった書籍や資料が各所に積み上げられ、舞い踊る塵が朝の光線のなかでキラキラと輝いていた。
 彼女が探しているもの。それはまさに謎の少女の声について――だった。
 ティーナはこの学園の卒業生。彼女が新入して間もない頃、この学園を震撼させた事件があった。12年生(といっても飛び級のエリートだったため、年齢は10歳前後)の女生徒が一人、学園内にて行方不明になってしまったのだ。当然、連日大捜索が行われた。しかし女生徒はなんの手懸りも残しておらず、まるで最初から存在していなかったように忽然と姿を消してしまった。成績優秀だった彼女は、ティーナ達の入学式で在校生代表として、壇上にあがった。訓辞を読み上げる姿は凛々しく、その声は夢で聴いた妖精の歌声のように美しかった…。
(な〜んか、似てる気がするのよね。昨夜の声…と彼女の声)
 一度聞いたら忘れられる類ではない。けれど他の記憶はおぼろげで、彼女の名前すら覚えていないのだ。学園の教官達も代替わりして昔のことを知っている人物は少ないし、第一はっきりとした確証もない…。
 というわけで資料室に足を突っ込んだのだが、簡単に見つかるはずの資料がどうしても見つからない。学生名簿もその頃のものだけ忽然と消えうせてしまっている。故意に誰かが隠したとでもいうのだろうか。
「まったく〜、学園祭も間近だっていうのに、また事件とはね。なんか最近やたらと何事か起こるわね。何かあるのかしら?」
 独りごちたティーナは、大きく伸びをすると司書室にもどって一息入れることにした。
 愛用のデスクには、学園祭の進行表や手配書などが、下の木目が見えないほどたくさん置かれている。
 そう、学園祭はもう明後日に迫っているのだ。通常学園祭といえば、日頃の研究結果発表やら、模擬店やら、つまるところお祭騒ぎなのだが、ダイナ学園の場合はもうひとつ重大な行事が盛り込まれていた。
 ――各種競技会…である。
 5月には進級試験があった。そして今年度は今月で終了。低得点の者には追試があって、ほとんどのものは進級したのだが、中には落第のハンコを押されてしまったものもいる。彼らにとって、『得意分野の競技会に参加し、賞を得る』ということのみが、進級への最後のチャンスなのだ。
 お祭好きのティーナは、ここ数年学園祭の実行委員長を引き受けている。
 競技会は魔法部門、実技部門など、多種目に及び、会場も学園内外を舞台に繰り広げられる。さらに学園の収入源として、このイベントには外界からの観客も受け入れているのだ。彼女にとっては、まさに大忙しの時期なのである。

「ティーナ!!  いるかしら〜?」
 開館前の図書館に、よく通る声が響いた。謎に包まれた生徒会、オールセインツの広報役、キトゥンだ。
 あらあら、もうお呼び出し?  これは昨日の謎の声についてだわね。
 この朝何回目かの溜息を吐いたティーナは、近づいてくる馴染みの生徒に向かって、何かを振り切るかのように華やかな笑顔を向けた。

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Material by Silverry moon light

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