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「それで、どうして、ぼくが君と一緒に…」 ダイナ学園からシナンの港町に向う船の中でエコが夕日に染まり出した海を眼前にしながら不服げに呟いていた。 セーラは一瞬、気持ちのよい船旅を壊されたような言葉にムッとしたようだったが、すぐにいつもの彼女のすました表情に戻る。 「そんなことを言ってるから、貴方は背が伸びないのよ」 「それとこれとは関係ないだろう?」 エコがむきになって隣りで、海とは逆向きに拠りかかって空を見上げているセーラを振りかえった。見ると、セーラはいたずらげな琥珀色の瞳を見せて含み笑いをしている。 二人はあれから、ティーナの許可書と共に船に乗りこんだ。明後日に迫った学園祭の準備の為、シナンの街に外出するという名目で。帰りは明日の船の予定である。リナは学園の時計台の担当に残っている。 どうしてこういう自体になったかというと、ティーナが学園祭の実行委員長で学園からどうしても離れられないからだった。学園祭の実行委員長は多忙である。その為にリナがティーナのバックアップにまわったのである。 ダイナ学園の学園章を描いた帆が魔法の風を孕んで爽快に目的地を目指して走っていた。優美なダイナ学園の帆船はシナンの港町に近づくまで誰の目にも止まらない。その場所が秘密にされたダイナ学園への海路もまた、秘密裏ゆえに。 ティーナが一段落して視線を上げると、そわそわしながら手持ちぶたさな様子で行ったり来りしているリナの姿が目に入った。 「どうしたの、リナ?」 リナは嬉しげな子犬のようにティーナのいるカウンターに寄って来た。その無邪気な水色の瞳が期待げに輝いている。 「先輩達は大丈夫でしょうか? 先輩達に限って間違いなんてことは…」 それを聞いて、ティーナはクスリと笑った。間違いが起るほどロマンチックなムードが微塵もない二人であるからだ。でも、今夜は満月、場所もいつもの学園ではなく港町シナン、あるいは…ということは起こり得るのかも知れない。15歳のエコと17歳のセーラ。 泊りがけは危なかったかな…。 でも、もし危ないとして、どっちが危ないのだろう? やはり…。 そんな想像を楽しんでから、ティーナはニッコリしてリナの期待がこもった心配に答えた。 「大丈夫でしょう。あの二人にロマンスは今のところ見られないし、目的意識が強い二人でしょうから」 たぶんね…と。 3時間弱の船旅が終ろうとしていた。目的地のシナンの港街が見えてきた。シナンの港町は翳りゆく夕日に映えて美しかった。シナンの町並みは白を基調に作られているから、夕日の色彩に染まり、なお更に映えるのである。 「綺麗だな…」 エコが感嘆した様子で言う。 「貴方には緊張感というものが足りない気がしますわ。これから、大事なことが待ちうけてますのに」 エコは聞き慣れたセーラの言葉のフレーズに心の中で溜息を吐いた。セーラが燃えだすとろくな目にあってないエコであるから無理もない。当然の反応といえば当然である。 「まず、今夜、わたくし達が泊まる場所を決めましょう。それから、夕食を…」 「そんなことをしていたら、展望台が閉まちゃうだろう?」 セーラがじっーとエコの顔を覗きこむ。 「エコ、他所様がいる時間に挙動不信な行動ができまして?」 「それはそうだけど…」 エコの嫌な予感は的中した。今晩、展望台にセーラと共に忍び込まないといけないのである。展望台が閉まるまで身を潜めていようと考えていたエコであったが、セーラはそういうことをまったく考えないらしい。この大胆な行動はどこから来るのやら、とエコはつくづく思う。 「もし、見つかったとしても、わたくし達二人なら、恋人同士の悪戯で通りますから大丈夫ですわ」 誰と誰が恋人同士だ! そんな事実ができたら、嘘だとしたって、学園中の噂話しになる。それだけは避けたいエコだった。 「さぁ、船を降りますわよ」 セーラは黒っぽい地味目だが華地紋の美しい洋服に挑むような琥珀色に瞳を輝かせて優雅な足取りで乗船口へと向った。 深く溜息をつきながらその後ろ姿を追うエコだった。 |