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 もし、あの声の主が彼の女生徒と仮定して、どうして今頃、あのようなカタチでメッセージを送ってきたのかしら?
 18年も経った今、この学園祭前のこの時期に…。
 なぜ…?
 ティーナが図書室のカウンターの中で通常業務をこなしながら、悶々としながら考えを巡らしていると不意にその会話が耳に入ってきた。

「ねぇ、あんなの前からあった?」
「う〜ん…、あったような…、なかったような…」
「そうなのよね、私もそこのところがはっきりしなくて、でも、どうしてあんなものがあそこに?って気もするしね」
「ここはダイナ学園だもの、むしろ、あれぐらいの不思議があっても自然なのかもよ?」
「そっか、それもそうね…」

 あんなものがあそこ? あんなものって?
 ティーナは慌てて、書棚の奥へと消え去ろうとしていた会話の女生徒達を呼びとめた。


 届いたけど、掴めないわ…。
 空を掴み取るばかりの自分の手を見て、ティーナは溜息をついた。
 話を聞いてすぐに、ティーナは女生徒達に聞いた場所に来ていた。女生徒達も届かなかったそれを自身の考えられる魔法を総動員して試みていたのである。
 そこにあって、掴めないそれ。賞状みたいな物を丸めた様に見えるそれを――。
 ティーナは時計台の短い針に腰を下ろして溜息をついた。短い針は3を差し、長針は6を差そうとしているところである。時計台の塔は蔭り始めた午後の陽射しの残照を受けて正確に時を刻んでいた。そこから見降ろす6月の新緑は素晴らしく見る者を魅了していた。ダイナ学園は丘も湖も広大な森もあり、それらが素晴らしいバランスで学園の建物と共存していた。
 本当にここは綺麗なところだわ。
 ティーナは感嘆の目でそれらを眺めた。6月の風が優しく彼女のプラチナブロンドの長髪をさらっていく。銀の眼鏡の奥の瞳は優しげに細めれられている。
 そこにあって、掴めない――それは時計台の文字盤の1の数字に重なる様に微妙な距離感で浮いていた。それは筒状に丸められた羊皮紙のようにティーナには見えていたが、果して何なのか、掴めないのでわからなった。
 一人じゃ駄目なのかしら?
 自然と今日、何度目かの溜息がティーナの唇から漏れた。
 ティーナは白衣のポケットから紙とペンを取り出した。応援を呼ぶためにメッセージを書きつける。それを飛行機型に折ると呪文を唱えて放つ。紙飛行機は午後の陽射しを浴びて軽やかにふわりふわりと目指すべきメッセージの相手を求めて飛び去っていった。
 通常なら、そろそろ、ダイナ学園は午後のお茶の時間を終えて最終時間の授業が始まる時刻だった。だが、明後日に迫った学園祭前の準備で午後は特別授業すらない。
 今日中になんとかしないと…。と、思うティーナであった。学園祭の実行委員長のスケジュールは分刻みで多忙なのである。


「ティーナさん、やっぱり、駄目みたいですよ」
 エコはまだ、諦めずにリナと論議しているセーラを横目に溜息混じりに言った。
 三人は先ほどの飛行機メッセージでティーナに呼ばれて時計台の針の上に居た。もちろん、セーラのように有無を云わせない“コダマ”を使ってのものではないので三人とも自分の意志で来たわけである。
「困ったわね…。これが、今回のあの声と関連ありと睨んだのに」
 セーラはリナとの会話を中断して、耳ざとく尋ねる。
「確信ありまして、ティーナさん?」
「確信といわれても困るけど…。たぶん、そうだと思うわ」
 セーラがそれに意を唱える前にリナがポツリと言った。
「やっぱり、これも、シナンの展望台から見えてるんでしょうか?」
 ティーナが、セーラが、エコがいっせいにリナを驚きの眼差しで振りかえった。
「それだわ、リナ! もしかしたら、ここでは駄目でも…、ありうるわよ」
 ティーナの顔に満面の笑みが広がった。
 ダイナ学園で駄目なら、ここ以外で唯一、時計台が望めるシナンの展望台からなら、あれへのアプローチの可能性があるかもしれない。
「リナ、冴えてましてよ」
「うん、すごいよ。よく気がついたね、リナ」
 みんなに誉められてリナの水色の瞳が少しはにかむように嬉しそうな色を見せた。

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