目次はじめに登場人物世界観等学園行事執筆仲間MLについて掲示板

No.01/NO.02/No.03/No.04/No.05/No.06/No.07/No.08/終話

   

かがり火


 銀世界にひとつ――
 想いがひとつ、また、灯火した
 雪上に、ひとつの想いが魔法のかがり火を宿す
 ひとつ、ひとつがそれぞれの想いを抱えて
 雪の最後の夜を彩って… 
    

『エコ! エコ! エコ・クラント!』
 石の壁にセーラ・リニー・ルーセンが送ってよこした魔法のコダマが聞こえてきた。それは、主に忠実に彼を見つけて、近づきつつある。この探索魔法はなかなか厄介で、別名“脅迫魔法”とも生徒間では呼ばれている。返しの魔法もあるのだが、撃退するにも人間関係や相手の力と面倒な事が多いので、余り使われていない。
 彼はため息をついて、呪文で開いたばかりの書を閉じた。1週間かかって、やっと、開いた書物である。学園の書物の大半には、その人間のレベルに合わせた呪文の鍵が掛かっている。その人間に負えない魔法の書は危険なので開けないようにしてあるのである。
『エコ、至急の用件です。重大なことです!』
 また、セーラの『重大なこと』が始まったか…。
 彼は読み出したばかりの書物に未練を残しつつ、それを、机に残して立ち上がった。いったいどうして、彼女の『重大なこと』に自分が毎度々々、付き合わされねばならないのか、納得していない彼である。
 思えば、ここに入学しての初めてのクラスで、彼女の熱心な誘いに乗ったのがいけなかったのかもしれない。と、考えて彼は思い直した。確か、2、3回までは他の同級生達も何人か面白がって一緒だった。それが、いつのまにか、彼一人になって、11年生にもなってもまだ…。おかげで、勉強の方にもこのように支障がきている。きっと、これも、彼女より身長が3pばかり低いせいだ、という結論を彼は導き出していた。
「ぼくだって、15歳になったし、もうすぐ、背が高くなるんだ」
 これが、彼の口癖である。

「遅いわね…。何をしていたの」
 セーラは両手に白い布製の物を抱えて待っていた。まるで、魔法のコダマに導かれてやってきたエコが、逆に彼女を呼びつけて約束に遅れてきたような態度である。
「セーラ、前から聞きたかったんだけど、どうして、ぼくをそうやって呼びつけるんだい?」
 彼を呼んだ説明をしようとして、口を開けかけた彼女は面白そうに彼のエメラルド・グリーンの目を見返した。
「そんな事もわからないなんて…。だから、貴方は背が伸びないのよ」
「それと、これとは別な話しだろう」
「それが、別じゃないのよね、これがね…。貴方の背が伸びない理由が知りたい?」
 エコは怪訝げに眉を寄せた。セーラは悪戯げな琥珀色の瞳を見せている。
「もうすぐ、背が高くなるんだ」
 彼女は金色の巻き髪を揺らしながら、くすくすと笑う。
「いいわ。教えてあげない。約束でもあるしね」
 約束? 誰?
 思わせぶりないつもの彼女の言葉に彼は顔をしかめた。
 そんな彼をみて、セーラの方は満足したようである。肝心の話しをしはじめる。
「重大な用事というのはね、これが手に入ったの」
 といって、セーラは両手の一方の白い布製の物をエコに渡した。
「白い外套衣?」
 広げながら、エコは尋ねる。
「わからない? これはね、ルーセンの祖母が織った特別な布で作った外套よ。どんな気候にも対処するという優れものなのよ」
 エコは不吉な悪寒が背筋に走ったような気がした。渡された白い外套を彼女に差し戻す。
「去年の失敗を取り戻すわよ。わたくしは失敗の原因は、防寒の方に魔法力を割いていたのがいけなかったと思うのね。今年はこれで魔法のすべてを探索の方に」
 彼女の話しが終わらないうちに、エコは白い外套をその手に戻そうと再度試みる。
「話しはこれからよ」
 彼女はそれを押し戻す。
「いいよ。君の話しはわかったから」
「いいえ、よくなくてよ。今年こそは雪見祭までに、聖人の残した最後の贈り物の一つという言伝えの“かがり火”を捜して、その謎の秘密を手に入れるの」
 世界が白銀の雪一色の季節になると、聖人が最後に残した贈り物の一つ言伝えの“かがり火”が現れる。それを見つけたものには大いなる秘密が授けられるという。
 ダイナ学園は【雪見祭】が最後の雪景色になる。次の日には雪はいっさい残らない。そして、一夜で春の季節にがらっと変わる。
「ぼくは今年は辞退するよ」
「あら、先生への申請書は受理されてるわよ」
「ど、どうして、ぼくの承諾は?」
「先生は貴方の為に良い事だからと快く、許可を下さったわ」
 去年の冬はそのせいで酷い目にあったのは彼だった。雪見祭りの次の日から風邪で1週間も寝こんだのも彼。セーラは元気でレポートを出して、ちゃっかり、単位をもらっていた。探索は夜の帳が下りてから、明け方までの時間しかできない。当然、昼間は頭がぼっーとして勉強に身が入らない。セーラはもとから、探索一本やりだから、昼間は気にせずに、よく居眠りをしていた。彼としては多いに興味はあったものの、今年は探索はしないで勉強に集中するつもりだったのである。それが、今年も自分の意思とは関係なくやる事になってしまったのである。
「さあ、今晩から、雪見祭まで頑張りましょうね!」
 エコの手にはルーセン祖母手製の白い外套があった。その白い色は彼に去年の真っ白な、熱で浮かされながら見たレポート用紙を思い出させた。

次へ

Material by Silverry moon light

目次へ