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No.01/NO.02/No.03/No.04/No.05/No.06/No.07/No.08/終話

「ねぇ、セーラ。オール・セインツにあんなに安請け合いして大丈夫なの?」
 エコはこう言いながら、今更ながらにセーラの『重大なこと』に関わったことを後悔していた。後悔と諦め。この二つがセーラに関わり始めてから、エコと仲良くなりはじめてしまったからだ。
 ──きっと、セーラはこう言うんだ。あら、エコ。そんなことも分からないの? だから貴方は背が伸びないのよ…。
「あら、エコ。そんなことも分からないの? だから貴方は背が伸びないのよ」
 エコの耳に思った通りの、セーラの声が響いた。別にだからといって誰に誇れる訳でもないのだが…。何か言い返そうと、エコがセーラの顔を見た時、エコはそこにいつもと違うものを見つけた。
 普段は自信に満ちている琥珀色の瞳が、溌剌としているその瞳が暗い。エコは驚いてセーラを見つめ直した。そして気がついた。セーラも自分と同じく、不安なんだと。しかし、セーラはそんなエコの表情に気がついたのか、すぐにいつものセーラの顔に戻った。
「あの、これからどうしましょうか?」
 リナはそんなセーラたちの様子には気づかなかったのか、いつもの調子で話しかけている。セーラもいつもの調子で答えていた。
「そうね、とりあえず神殿の扉を開けないことにはどうしようもないわね。…フィンさん、何か思い当たることはないですか?」
「…まぁ、ないわけじゃないけどね。でも、さっき言った通り、僕は君達を手助けするつもりはない」
 セーラはフィンの物言いにかちんときた。エコとリナも釈然としない。セーラが猛然と反論を始めた。
「フィンさんだって今の状況は分かってるでしょう! そんな事言ってる場合じゃないんです!」
「分かっているさ。僕は既にあの本を読んでいるんだから」
「じゃあ、なんで…」
「君はさっき、『必ずわたくし達が解決して見せます』と言ったんじゃないのか? それともさっきの言葉は嘘なのかい?」
 フィンの言葉にセーラは黙らされてしまった。沈黙する三人を尻目にフィンは更に言葉を続けた。
「君にあのルーセン家の一員としての自覚があるのなら、自分の発した言葉には責任を持つべきだ。たとえそれが自分の力に余るような事であっても」
「どんなことでも?」
 『そんなのひどい』とリナが声と表情で示していた。フィンはそんなリナの感情は少なくとも表面上は受け流した。
 「君達が魔術を志すなら当然だ。術師は言葉によって精霊や自然に語りかけるのだから、そこに嘘や無責任が混じってはいけない。しかし、その言葉は日常の生活が大きく影響してくる」
「でも、今は…」
「分かりました」
 セーラがリナの言葉を遮った。その目はフィンを見据えている。琥珀色の瞳は怒りか、もしくはそれ以外の何かでキラキラと輝いていた。
「ぐずぐずしている暇はないわ! エコ! リナ! 行きましょう!」
 言うが早いか、セーラはきびすを返して神殿に向かいだした。エコとリナもあわててその後を追う。後にはフィンだけが残された。
 ──やれやれ、ようやく本気になったかな。
 フィンは三人の後を追いながら、一人つぶやいた。
「面白くなってきた」

「ねぇ、セーラ! …ちょっとセーラってば!」
 エコとリナはセーラに神殿の扉の前でようやく追いついた。
「遅いわね…何をしているの」
 腕を組んで、セーラは仁王立ちしていた。もう1時間も待っていたような態度だ。肩で息をしているというのに…。
「セーラがいきなり走り出すから…」
「もう、そんな事はどうでもいいの。とにかく神殿の扉を開ける方法をみつけなきゃいけないのよ!」
「…でも、どうやって開けましょうか?」
 リナの言葉にセーラは自信ありげに答えた。
「押すのよ!」
「は?」
「だから、押すの!」
「へ?」
  エコとリナは呆けたようにセーラを見た。そんな二人にため息を一つつくと、セーラは説明を始めた。
「さっき、フィンさんと話しているときに思い出したことがあるの」
「どんな?」
「わたくしの家に伝わるおとぎ話よ。あんまり昔の事だったからすっかり忘れてたわ」
 エコとリナは顔を見合わせて当惑顔だ。
「ねぇ、エコ先輩。セーラ先輩は何を言ってるの?」
「ぼくにだって分からないよ。ちょっと錯乱しちゃってるのかなぁ」
 セーラがイライラしたように言った。
「なにこそこそ話してるのよ! そのおとぎ話に氷の神殿がでてきたのよ!」
「え!?」
「その中でも開かない扉があるの。どんな屈強な男の人でも、大勢の人がやっても開かないんだけど、主役の子はその神殿の中に入ることが出来たのよ」
「ど、どうやって?」
 エコも興奮気味に聞き返す。これでぼく達が大陸に春をもたらすことが出来れば去年提出できなかったレポートの単位の穴埋めを出来るかもしれない!
 しかし、いささかせこい理由でエコが盛り上がっているのにも関わらず、セーラは押し黙っていた。
「ねぇ、セーラ。どうやって中に入るんだい?」
 重ねてエコは聞くが、相変わらずセーラは黙ったままだ。おまけにちらっとエコを見ると、顔を背けてしまった。
 エコはびっくりして思わずセーラの肩をつかんで詰め寄った。
「セ、セーラ! どうしたんだよ!」
 セーラは相変わらず顔を背けたままだ。エコの目にはセーラの横顔しか見えないが、寒い中、神殿まで走ってきたためか、セーラの頬と耳朶が薄く染まっているのが見えた。
 いきなりセーラがエコを見返した。
「とにかく、神殿の扉を押せばいいのよっ!」
 セーラはエコの腕をつかむと、ずんずん扉の前まで引きずって行く。
「さぁ、押すわよ!」
「う、うん…」
 セーラの迫力に圧倒されて、エコはただ頷くばかりだ。
「あのー、私はどうすれば…?」
「あ、リナちゃんは私とエコの後ろから背中を押して。この扉は三人で押せるほど大きくないからね」
「わかりました」
 リナがエコとセーラの後ろに回る。
「準備はいい? わたくしのかけ声で一斉に押すのよ!」
 ほんとに押したぐらいで開くのかな、とエコが思ったときセーラのかけ声が聞こえた。
「はい、押して!」
 セーラのかけ声と共にエコとセーラが神殿の扉に手を押し当てた瞬間、扉が強い光を放ち始めた。
「な、なにこれ?」
「ちょ、ちょっと待った…」
「なんですか、これは?」
 次の瞬間、三人の体は光に包まれて、扉の前から忽然と姿を消した。

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