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No.01/NO.02/No.03/No.04/No.05/No.06/No.07/No.08/終話

 かまくら。
 雪国で手軽にできる防寒対策の一つ。簡単に言ってしまえば人工的に作った雪洞である。入り口を風下に向けて、中でたき火でもすれば、屋外で一晩過ごすこともできる。
 リナ・ミラージュという名のトラブルを抱え込んでしまったセーラの考えついた解決策がそれだった。――いやいや、待つんだ、エコ。彼女は別にトラブルじゃない。可愛い下級生じゃないか。年下の女の子なんだぞ。そんな風に思うなんて失礼だ。エコは自分をたしなめた。
 そうとも。リナが仲間に加わった――というより、彼女のことを気に入ったセーラが無理矢理誘った――ことはトラブルなんかじゃない。問題は、防寒具であるルーセン祖母手製の外套が2枚しかない状況で、三人目を作ってしまったことにある。
「……って、ことは、セーラが悪いんじゃないか」
「わたくしの、何が、悪いですって?」
 わざとゆっくりと、一語一語区切りながら言うセーラの声が聞こえたような気がして、エコは辺りを見回した。セーラのあの、ネズミをいたぶっている時の猫のような(と、エコがこっそり呼んでいる)笑顔は見えない。そこにあるのは、雪景色と、夜の闇と、星の光と、……かまくらだけだった。
 かまくらの入り口から中を覗き込んでみる。
「何か変わったコトありましたの?」
「何もないよ、セーラ」
「エコ先輩、寒い中ご苦労様です」
 ――そう思うなら代わってくれよ。
 思っても口には出せない。出したが最後、打ち合わせの時の二の舞いになる。外套を2枚重ねで着込んでいるエコは"雄々しく"微笑んで、そのまま外の見張りに戻った。
 ――学園のほとんどが視野に治められる見晴台の、このすばらしい景色を一人占めしているんだ。そう思おうとした。なんだか涙が出そうだった。

 そのころ、部屋でスケジュールを確かめていたキトゥンは、弾んだ声を上げた。
「ああ、忘れるところだったわ。もうすぐ雪見祭じゃないの」
 寮の彼女の部屋からは、学園のグランドが一目で見渡せる。当然、雪見祭の夜には、生徒達が思い思いに付けた灯を見ることができる。彼女は、その景色が大のお気に入りなのである。
 去年の光景を思い出しながら、窓の外を見渡すキトゥン。夜の闇の中で、大地に積もった雪が輝いている。見慣れた風景に雪が加わっただけなのに、なぜか妖しい美しさがあった。いつの間にか、温かい笑みを浮かべていた。……そして、突然、その笑顔が引きつった。
「何、これは!!」
 叫ぶなり窓を開け放つ。
 緑なす草花の精霊・軟らかな日差しの精霊・厳しいながらも優しさを秘めた春の嵐の精霊……。この季節、雪と冬の精霊達に見守られ、眠っているはずの春の精霊達が、狂ったように目の前を飛び去っていく。
「……いったい、なにが?」 
 部屋着の上から外套を羽織ると、そのまま窓から飛び出す。二階の窓から下まで落ちる間に"軽量化"の術を掛け、雪のクッションも利用して、すばやく立ち上がる。
 火山の噴火などの大災害が起こる時は、こんな現象が起きると聞いているが、もしそんな兆候があれば、彼女の仲間――オール・セインツの誰かが気づくはずだ。つまり、今いきなり始まったのだ、この現象は。どうも精霊達の動きは、ある一点から離れようとしているようにみえる。
 キトゥンは、精霊の動きに逆らうように走り出した。精霊達が逃げ出そうとしている、まさにその一点を目指して。

 2枚の外套と三人のメンバーという問題を『かまくら』という手段で解決しようとした三人の前に、別の問題が立ちはだかった。その問題とは、『かまくらの中からは外が見えない』ということだった。聖人の"かがり火"が探索の魔法に引っかかるのか分からない以上、誰かが見張りに立つ必要がある。
「三人で順番に見張り役をやればいいんじゃないかな。ぼくは朝方の……」
 エコは、あとのニ人より寒い時間帯の見張り役をしよう、と思っていた。立派な騎士道精神である。
「ああ! じゃあ、私が見張りの間、セーラ先輩とエコ先輩、かまくらの中でニ人っきりですよね。うわああ、ロマンチックぅ」
 セーラに誘われたのがよほど嬉しかったのだろう。かなり浮かれているリナの台詞に、あとのニ人は目を見合わせた。
「でもって、でもって。セーラ先輩が見張りの時は、私とエコ先輩がニ人っきり。……うふふ、エコ先輩、いやらしいコトしないで下さいねぇ」
「……ぼくが、一人で、見張りを、やるよ。………一晩中」
 ――あれ? 待てよ。
 打ち合わせの時のことを思い出していたエコは首をかしげた。
 ――じゃあ、去年、ぼくとセーラは、ニ人っきりだったわけだ。…………一晩中。10日間もの間ずっと。
 うわああああああ。じゃ、じゃあ、下手したら、『ここにいるエコ・クラント君とセーラ・リニー・ルーセンさんは、聖人の"かがり火"を探すという名目で、深夜に密会をしていました。皆さん、このような破廉恥な……』みたいな感じで、全校生徒の前でさらし者にされて、ラスト・クラスに送られて、落第させられて、オール・セインツに目を付けられて、なあんてコトになりかねないトコロだったんだ。
 エコはそんな状況を想像して、体を震わした。そこまで酷いことになるはずもないのだが。――彼は、少し奥手なのかもしれない。
「あ、危なかったなぁ」
「何が危ないの?」
「え?」
「だから、何が危ないのか聞いているのよ。分かっているんでしょう、君には?」
 ――あれっ、このヒト、たしか、学園一の術者とも言われているキトゥンさんだよ。でも、どうしてこんな夜更けに、こんなところに? すごく忙しいヒトで、確か……
「――オール・セインツの!」
「そう、オール・セインツのキトゥン。アトミック・キトゥンよ、私は。君は、ここの危険性に気づいているのよね。さあ、今すぐ教えてちょうだい。一体何が起ころうとしているの?」
 せっかちなところのあるキトゥンは、苛立ちを込めて深緑の髪を揺らし、エコに詰め寄った。
「べ、べべべ、別にぼくは、いやらしいコトとか、破廉恥なコトとか、してたわけじゃなくて。ちゃんと先生とかの許可ももらって、あの、その……」
「何を訳の分からないコトを言っているの。やましいコトでもあるの!」
「やましいコトなんか、全然やってないです!!」
 エコが突然騒ぎ出したのを聞きつけて出てきたリナが、口を挟んだ。
「やましいコトって、エッチなコトですか?」
「ちっがーーーーーう!!」
「うわああ。エコ先輩、いやらしい」
「何が、いやらしいっていうんだ!」
「だああって、やましいコトって、エッチなコトじゃなくて、やましいコトはしていない、ってことは、エッチなコトはしてる、ってコトになるじゃないですか」
「なんで、そうなるんだーーーーー!!」
 脇から見ていると、リナはエコがムキになるのが面白くて、からかっているだけ、なのだが。――エコの方は気づいていないようだ。そんなニ人を無視して、セーラから事情を聞いたキトゥンは顔をしかめた。
「……何が起こっているのか、ずっとここにいた君達にも分からない、って、いうことね」
「えっ? 何か、変わったことでもありましたの?」
「感じない? 春の精霊達がこの辺りにはいないわ」
 言われてセーラは、辺りを見回す。
――確かに、春に現れる精霊達は見当たらない。
「……でも、今は冬ですもの――」
 説明しようとして、キトゥンは口を開いたが……
「――あれは……まさか?」
 口から出たのは、そんな台詞だった。

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Material by Silverry moon light

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