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「それではエコ、わたくしは用があるのでこれで失礼しますわ」
 セーラはそう言うと、来た時と同じ勢いで部屋を出ていった。
 エコがため息をつき、課題の用紙に再び視線を戻したとき、再び扉の開く音がした。
 驚いて振り返ると、去ったはずのセーラが入り口で仁王立ちし、
「言い忘れましたけどエコ、わたくしの足を引っ張るようなことは許しませんよ。やるからには、最高のものに、これまでにはない ようなものにするのですからね」
 と高らかに言い放つと、再び去っていった。
 さっきよりも更に大きなため息をついたエコの頭の中には、ひとつの方式がぐるぐると回っていた。
 ――進級試験の課題は2つ。片方はセーラとの共同。そうなるとこれまでの経験から考えても、セーラの都合に振り回されることになるのは間違いない。よって、もう一方の校歌についての課題を何とか早めに、セーラが自分の課題を終わらせる前に仕上げなければ、落第の危険さえある――と。
「どうしよう…、だめだ、まず落ち着いて考えなくちゃ…」


 薄暗く静かで、聞こえてくるのは、風により窓に打ち付けられる雨の音だけ。ここは何度来ても薄気味の悪い場所で、エコは早くも1人できたことを後悔していた。
「せめて今日の天気がこんな雨じゃなければよかったのに…」
 壁に貼られた肖像画。置かれている大小さまざまな楽器。どれもが、不思議な、不気味な噂のあるものばかり。ここは学園の中でも、不可思議な現象のよく起きる場所として知られている音楽堂である。
「どうして教官室にいないで、わざわざこんな所にいるのかな」
 エコはぶつぶつ愚痴りながらも、勇気を絞って奥に進んだ。
 なぜエコがわざわざ苦手な音楽堂にやって来たかというと、彼は自分の課題を終わらせる近道として、まず専門家の話を聞くことに決めたのである。
「まあ、二人一緒にいるというのは効率が良くてうれしいけど…」
 この建物の更に奥、小さな扉の向こうには双子の教官、音楽のマーリンと言語学のモーラがいるはずである。
 しかしエコは、重要なことを忘れていた。目の前の問題で頭がいっぱいになってしまっていたのだろうか。音楽堂以上に、セーラ以上に彼はその双子の教官が苦手であるのに…。
 マーリンは旋律に魅せられ、モーラは詩の世界に遊ぶ、彼女らはエコには理解のできない芸術家であるということを。

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