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「全然、憶えていないのかね?」 アルヴィトの深い緑の細い瞳がまっすぐにエコを覗き込んでいた。アルヴィト・ジャスパー は生物学の教官で動物に関してはダイナ学園随一と云われている人物だった。ただ、噂では魔法は若干問題があるらしいともと。 魔法じゃなくて、行動で示したことから、その噂も、本当かもしれないと殴られた場所を確認しながらエコは思った。担当教官のマシュー・ホナーの強い助言で今年はアルヴィト・ジャスパーの生物学を取っている彼である。だが、授業以外でアルヴィト・ジャスパーと言葉を交わすのはこれが初めてである。 「シナン」という大きな港町から、学園の船だけでしか辿り着けないダイナ学園。その場所も秘密のダイナ学園は魔法・剣術・その他の学問を教える総合学園である。生徒個人の能力と適正に合わせて、担当教官と相談の上、個人ごとのプログラムが組まれていた。当然、本人の希望と素養で判断されていたのである。素養の高い順にそれを中心に延ばすように組まれていて、魔法に秀でた者は魔法に重点を置いたりという風に。その教官陣は一応、魔法達者なはずであったのであるが、どこにでも例外がある。アルヴィト・ジャスパー はそんな中の一人だったのである。 「音楽堂の扉を開けたところまでしか、憶えてません」 アルヴィトはのんびりした性質であったから、思案げにしばらく考えてから穏やかに言った。 彼が考えてる間、双子の教官マーリンとモーラはキーキーとめいめいに喚いていたが、本人以外にそれを聞いてる者はいなかった。 「まぁ、無理に思い出さない方がいいのかもしれないね」 納得がいかないエコは眉間をしかめた。 「君が許容出来るようになったら、その時は思い出すだろうからね。無理に思い出して、また、私に混乱して殴られるのも嫌だろう?」 エコは不承不承だが頷くしかなかった。云われたことはもっとも過ぎたのであるから。しかし、いったい何があったか気になるエコでもある。 「ところでどうしてここに? 進級試験の課題で忙しい時期だろう?」 ああ、そうだった。ぼくは用件を忘れるところだった。でも…。 と、エコは思う。マーリンとモーラを見て不安に駆られたのである。 「えーっと、その課題の件で来たのですが…」 アルヴィト・ジャスパーは細いその緑の双眼を更に細めた。 「エコ君の課題は歌なのですね?」 「はい、そうです」 「歌〜♪、唄〜♪、うた〜♪」 珍しくマーリンとモーラがそのキーキー声でハモッテていた。そこからまた、めいめいが各自の世界に入ってキーキー声で言葉を紡ぎ出す。 アルヴィトは少し声をひそめて、心配そうにエコに言った。 「今日は君もショックを受けているようだから、明日にでも出直してきた方がいいのではないのかな?」 |