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 ダイナ学園の生徒会オール・セインツの顔である広報アトミック・キトゥンと知り合ってから、それまで無縁だった生徒会オール・セインツがなんだか急に身近になったような気がする――とエコは思っていた。ふっと気がつくとオール・セインツの影をみたような、そんな感じである。オール・セインツがエコの周囲をうろつく理由はエコにも見当がつかなかったが。オール・セインツの関心のある事柄の“なにか”に、あるいは、その“なにか”に自分が首を突っ込んでいるもだろうか?
 生徒会オール・セインツはアトミック・キトゥン以外は謎でその活動も謎。さっぱり、わからない彼らをどう判断していいものやら、エコの思考は迷走状態である。
 ダイナ学園の生徒会オール・セインツ、彼らは何を考えているのだろう?
 それに、キトゥンがマシュー先生へ嘆願した? セーラとの共同課題をと? それはキトゥン個人というより、オール・セインツの意向なのだろうか…。何の為にそんな必用あったのだろう。あのマシュー先生が素直に承諾するとも思えないが、相手がオール・セインツだと違うということが起り得るのだろうか…。
「エコ、貴方まさか、さっきティーナさんがおっしゃったことを鵜のみにしているのではないでしょうね?」
 セーラの問いは鋭いところをついていた。エコは内心ドキリとする。でも、平常心を装って答えるように努力した。セーラの前で動揺を見せるのはどんな場合も、危険過ぎるのである。これ以上、厄介ごとを増やしたくないエコにとっては…。
「もちろん、してないよ」
 それを聞いて、セーラの琥珀色の瞳が真っ直ぐエコを射抜くように煌いた。
「いいわ。これからマシュー先生のところに行きましょう」
「セ、セーラ。キトゥンさんにこれからお礼方々、本を渡しに行くところじゃないか」
「キトゥンさんの方は後回しでもいいでしょう。『今すぐに!』の方ですもの、すぐこの本がご入用なら、ご自身でわたくし達の元へいらっしゃるのじゃなくて」
「それはそうだろうけど…」
「じゃ、いいですわね」
 セーラは快活に前を歩いて行く。そんなセーラを納得させるほどの異議を唱えられそうもないエコは悟られないように溜息をついた。諦めてついて行こうと歩き出したエコに小声でリナが話しかけてきた。
「エコ先輩。私もご一緒してもいいですよね?」
「うん。でも、どうしてわざわざそんな事を聞くんだい?」
「実はお会いしたことがないんです、私」
 リナはどういう授業の選択をしているのだろうか? エコは以前にもこんな疑問を抱いたことを思い出した。
 エコ達の担当教官ホナー・マシュー は歴史魔法学の授業を受け持っていた。魔法を中心に取っているリナであろうから、当然ながらマシューの授業も取っているとエコは思っていたである。10歳のリナは10年生でかなりの飛び級をしている優秀な生徒である。これは、そのせいなのだろうか?



「確かにキトゥンには頼まれたがの…」
 単刀直入なセーラの問いにマシューはあっさりとそう答えた。
「マシュー先生…」
「まぁまぁ、セーラ。話しは最後まで聞くものじゃて。そうさの…」
 天井を見上げながら、開いた本をそのままに思案げな様子を見せるマシューだった。しばしの沈黙が流れる――。
 やっとマシューが口を開いたのは、エコが勝手知ったるマシューの教官室の小さなキッチンからお茶を各自に手渡して一息ついた頃だった。エコもセーラもマシューの沈黙の長さにはすでに慣れっこになっている。一方、リナは物珍しそうに好奇心旺盛な瞳をキラキラさせながらあたりを見回している。
「キトゥンがわしに頼んだのはもう一つの課題の方じゃよ」
「えっ?! 」
 三人はお互いの顔を見合わせる。
「校歌の方ですか、先生?」
 エコの問いかけに同意するように、銀色の双眸が優しげに細められる。
「それは、どういう事なんでしょう?」
「さてな、わしは理由は聞かなかったからの…」
 やっぱり、マシュー先生はたとえオール・セインツの頼みといえども自身の信念通りに行動する人間だった。エコはそう考えて嬉しくなった。
 でも、それはそれとして、どうして、ぼくがあの校歌の課題をセーラと一緒にやらなくちゃいけないんだ。
 エコの中にむくむくと怪訝げな疑問がわいてくる。それを望んだろうのはキトゥンだろうか、それともオール・セインツなのだろうか。彼らの目的はなんなのだろうか…と。
 自分で入れたストレートの紅茶を啜りながら、エコがそんなことに頭を悩ませているうちに話しはさっきの銅像の顛末へと変わっていた。
「…それは、それは、危なかったのぉ」
 セーラを心配げにマシューが言った。そのセーラを見る銀の眼差しは優しい。
「マシュー先生は信じてくださいます?」
 セーラの琥珀色の瞳が確信を得たような輝きを見せていた。
「あの羊皮紙を持って、聖人像の前で唄ったのであるならば、そうなるじゃろうて…」
「あれは事実ですのね」
「セーラにとっては事実じゃ」
「それって、他の人にとっては別だということですか?」
 リナは時々鋭いことを言う。
「そうじゃ、あれは己の願望を映す鏡にも似たものじゃから」
 じゃ、セーラは自分の抹消を願った?ということ。あのセーラがまさか…。
 エコには信じられなかった。
 鏡に似たもの? 似たもの?って事は、もっと、深い意味があるのかもしれない。
「聖人像の前で歌を唄うと、羊皮紙を持った者の真相を反映して幻影を見せる魔法が起こるということでしょうか?」
「まぁ、そうなるの、セーラ」
 羊皮紙を持った者が…。ということは…。
「マシュー先生、羊皮紙になにか細工をしましたね?」
「それも課題のうちなんじゃたが…、セーラが発動させてしまったのでは、やれやれ、こんなことは始めてじゃて、さて、どうしたものかのぉ…」
 そう言ったマシューは全然、困ったようには見えなかったのだが…。


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