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「やっぱり、一度現状を把握しておく必要があると思うんだけど」
 悩みに悩んだ挙句、口にしたのがこれである。
 あまりいい発言ではなかったかとエコが思っていると、意外にもセーラがそれに賛同した。
「そうですわね。フィンさんたちにも話を聞いてみる必要がありますわ」
 ああ、そこでフィンさんか…。
 内心エコはこれでは益々話がややこしくなりそうだと頭を抱えたが、一度零した言葉はもう口に返るはずもなく。仕方なしにフィンとザブレフたちのところへ行く羽目となったエコである。
「課題は校歌について、だっただろ?」
 フィンたちのいる確立が高そうなところ、といえど正確な場所は思い浮かばす。とりあえずティーナのところにでも行こうかとエコとセーラは結論を出した。
 そこに向かう途中、黙っているのもどうかと思い、エコはセーラに話しかけた。
「そうですわ」
 軽くうなづいて、セーラは相槌を打つ。歩くスピードは相変わらずだ。
「図書館司書のティーナさんなら、何か知っているかもな」
「…それか、今の卒業生か…」
「卒業生?」
 唐突なセーラの言葉にエコが疑問符を発する。
 ティーナなら分かるが、なぜそこに卒業生が? また前回の事件でも関わっているのだろうか?
 何か言いたげな表情のエコを見て、セーラが苦笑した。
「別に、気にするほどのことではありませんわ。ただ、ステラ先輩ならあるいは……」
 そう言ってこうべをかしげるセーラ。
 エコよりも少し――彼が言うにはほんの少しだけ――高いセーラの肩。自分の隣を歩くセーラの巻いた金色の髪の毛が風にふわりと揺れて、エコは一瞬不覚にも綺麗だなと見とれてしまった。
「エコ?」  いきなり黙り込んだエコを見て、不思議そうにセーラが問うた。
「どうかしましたの?」
「いや。何でもない…ぼくがあの羊皮紙を発動させたらどうなるのかなって思ってさ」
「…もう一度やるおつもりですの?」
「え?」
 不意に立ち止まったセーラを振り返って、エコは聞き返した。
「ですから、もう一度あの羊皮紙を発動させるおつもりですの?」
「いや、別にそういうわけじゃないけど…」
 そこまで言って、エコははっとした。
 あのときマシューは「羊皮紙は持ち主の真相を反映する」と言った。危険思想、とまではいかなくとも、マシューはセーラの内面に秘められた情熱や野望、情動を攻撃的であると表現していた。
 羊皮紙が発動して聖人像が襲ってきたという事実。

 …セーラがこの件に関して敏感になるのも仕方が無いな。

 エコがそう思っていると、セーラがじっと自分を見つめているのに気づいた。
 セーラの眼は真剣だ。吸い込まれそうな琥珀色の瞳。
「己の願望を映す鏡…。あのときの、わたくしの願望は…」



 授業の予定が無い、誰も来ないはずの教室に。
 長身の女生徒が一人、最後列で窓際の席に座っていた。
 長く軽そうな水色の髪の毛に、意地の悪そうな檸檬色のつり目。右足を上にして足を組み、怠惰な雰囲気をかもし出している12年生――ステラ・クロスビーである。
 そして彼女は今、猛烈に「つまら」なかった。
 この時間を、感触を、気持ちを自分が楽しいと呼べるものに変えてくれるのならば、その人の宿題を一つ二つ代わってあげてもいいというほどに飽きていた。
 問題は、今回の課題である。
「別に課題なんて、そんなに時間かけて頑張らなくてもいいのに…」
 ステラは手にした羊皮紙に視線を落とすと、一つ大きなため息をついた。その口調はさながら人生に飽きた老人のようであったが、彼女はそれを自覚していない。
 紙の端がうっすらと黄ばんだそれは、癖のある見慣れた字で自分への課題が書かれていて。
「進級がかかってなかったら、こんなもの今頃くずかごの底ね」
 もう一度つまらなそうにため息をつくと、長い足を組みなおし、ひざに頬杖をついて窓の外を眺める。
 ステラの檸檬色の瞳はいかにもやる気がなさそうで、彼女の周りには午後のアンニュイな空気が停滞していた。
「紅茶でも用意するべきだったかしらね?」
 外から吹いてきた柔らかな風に、薄い水色の髪の毛がもてあそばれる。
「気持ちのいい風だね。お昼寝にはもってこいと見た…」
 ふああ…。
 背中を思い切り伸ばし、続けて丸くなるというまるで猫のようなあくびをすると。
「それでは皆さま、お休みなさぁい……」
 誰に対して言っているのかは分からないが、ともかくステラは、さわやかな風の吹く教室の一角で。
 心地よい午後の眠りへと突入したのだった。


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