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感謝祭の誤算

   
 常に物事には表の顔と裏の顔がある
 人々がそれに心を奪われれば奪われるほど
 表の顔が華やかで煌びやかであればあるほど
 裏の顔との隔たりはその距離感は遠くなる
    

 三大陸――エレガ・キュウ・ロマにはそれぞれに収穫祭がある。もちろん、ダイナ学園も同様に催される。
 厳かな感謝を捧げる収穫感謝祭。喜び集う収穫歓喜祭。感謝祭は食事も保存食で質素を常とするが、歓喜祭はその逆である。大仮装大会等のイベントが催され、お客が招待され、最後の締めに大ダンスパーティーが開催されて幕を下ろす。
 セーラ・リニー・ルーセンはそんな秋の収穫祭が大嫌いであった。収穫感謝祭は言うまでもなく、皆が楽しみにしている収穫歓喜祭も嫌っていた。学園に来るまでの彼女にとっての収穫祭は孤独以外のなにものをも、彼女にもたらさなかったからで。この時期毎年、彼女には珍しく部屋にこもって出てこないのである。
 それが今年は……。

「今なんて言ったの、セーラ?」
 図書館の脚立の上で書物を探していたエコは驚いてバランスを崩して落ちそうになった。慌てて書架にしがみつく。
「このわたくしが貴方のダンスパーティーのパートナーになって差しあげると言ったのですわ」
「君は収穫祭はもちろん、ダンスパーティーも嫌ってたじゃないか。それがどうして…」
「ルーセンの祖母が収穫祭の招待客のリストに載っているという知らせが先ほど届いたのです」
「ルーセン家の人が来るの?」
「ルーセンの祖母がです」
 セーラが力強く訂正をする。セーラにとってルーセンの祖母は特別である。ルーセン家の中で唯一、セーラのいう事を何でも聞いてくれる優しい存在だったのである。
 エコは両親がいないので身内の者は催し物があっても来れないのだが、セーラの場合は違う。催しの度に学園から保護者宛てに招待状が届けられるのである。それが一度も誰も来ないのである。それが…。
 エコは取りあえず、脚立を慎重に降りた。なんだか今年の感謝祭は面倒な気がするなどと思いを巡らしながら…。
 そんなエコを見透かしたようにセーラが念押しする。
「よろしくてね、エコ」
 エコの拒否権を認めていないセーラである。
「あ…うん…」
「わたくしの申し出を喜ばないの?」
 エコは戸惑っていた。いつもの『重大なこと』のコダマの呼び出しにおいての要求ではない展開に…。
 一方、セーラにとって、事はすでに次の段階に入っていた。
「まぁ、いいですわ。その無礼な態度の代りに、感謝祭の日はわたくしの用事に付き合うのよ」
 これ以上要求がエスカレートしないうちに、エコは心の中でため息をつきつつ承諾した。逆らっても無駄なのをエコはさんざん自身で体験している。セーラのこの態度は今に始まった事ではない。きっと、その日は学園だけは魔法力が弱まるので、魔法を使えなくなるの嫌うセーラは船で大陸にでも行きたいのだろう。翌日の準備もしたいだろうし――と考えたのである。
「わ、わかったよ」
 セーラは満足そうに微笑んだ。そして、心の中で呟く―。
 わたくし達のメインは感謝祭よ。わたくしの考えが正しければ、その日は図書館奥の開かずの間の扉が開くわ。
 ダイナ学園が隠蔽しようとしていたその裏を垣間見る事ができるのよ。わたくし達が古の大魔法を手に入れる絶好の機会だわ。
 セーラはそう考えていた。だが、彼女はこの時、もう一つの違う可能性を考えていなかったのである。扉の向こうは常に一定ではないという可能性を――。
 そして、学園が生徒達を開かずの間から遠ざけたかった本当の理由が何なのかを――。

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Material by 13-Thirteen

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